耐薬品手袋や化学防護服などの個人用防護具(PPE)を手がける豪アンセル。昨年には米キンバリー・クラークのPPE事業を約6億ドルで買収し、半導体や製薬分野に認知度の高い製品や事業基盤を獲得した。日本は2024年4月に労働安全衛生法を改正し、化学物質による労働災害を防止する取り組みを強化。化学品防護のニーズが高まっている。アジア太平洋地域などを担当するアウグスト・アコルシ最高商務責任者に日本の戦略を聞いた。
労働安全衛生法の改正から1年を経て、日本の市場環境はどう変わりましたか。
リスクアセスメント対象の化学物質は改正前の674から約2900に大幅に増加し、今後は規制の実施も製造業からホテルなどの第3次産業へと広がると考えられる。
当社は化学物質に応じて最適な防護具を科学的な観点から提案するデータベース『ガーディアンケミカルサービス』を手がけている。業界最多の5万種超の化学物質の保護手袋に対する透過性データを蓄積し、その耐性を評価しながら、用途や使用条件に応じた製品を検索したり、試験データを提供している。改正前、日本の問い合わせは年900件程度だったが、改正後は4000件程度に急増している。
日本の需要拡大をどう取り込みますか。
日本専任のマーケティング組織を構築し、販売代理店と緊密に連携しながらエンドユーザーのニーズをくみ上げている。足元では日本での人的リソースをどれくらい拡大し、どのエリアに注目していくのかを議論しているところで、日本に大きな投資を掛ける計画だ。
キンバリー・クラークのPPE事業買収は日本戦略にどう結びつきますか。
持つ。アンセルは半導体製造や製薬などのサイエンティフィック業界に存在感を示せていなかったが、買収を通じて補えた。今後はアンセル製品も含めて幅広い顧客に提案ができるようになる。
また、今回の買収で人材基盤が厚くなり、クリーンルーム環境の変更管理や汚染防止などのノウハウを提供する『APEX』と呼ぶ新事業も加わる。使用ずみのPPEを回収し、他の製品にリサイクルをする取り組みを、米国だけでなく日本を含む世界で今後展開することも計画している。
米国のトランプ政権が進める関税政策の影響をどう分析しますか。
コロナ禍で世界のサプライチェーンが大混乱した際、当社は基幹製品を中心に複数の工場で製造する戦略転換を進めた。仮にある国に高い関税がかけられたとしても、別の国で同じ製品を製造し供給できる柔軟な生産体制がすでに整っている。
聞き手=三枝寿一
(出典: 化学工業日報。掲載期間は1年間 )
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