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Ansell Ltd.

化学防護具大手の豪アンセル、日本で世界超える成長

医療や産業向けに手袋などの防護具を展開する豪アンセル(メルボルン)が日本開拓に力を入れる。半導体の洗浄工程などで使われる化学薬品アセトンに耐性を持つ業界初の使い捨て手袋を世界に先駆けて12月をめどに投入し、安全管理などの規制や技術に精通する専門人材も増員する。世界の中でいまなぜ日本に目を向けるのか、ニール・サーモンCEOに聞いた。

グローバル事業における日本の位置付けを教えてください。

 「2025年度の全体の売上高は約20億ドルで、前年度に比べて約23%増加した。24年に米キンバリー・クラークの個人用防護具(PPE)事業を買収した効果が大きく、買収効果を除いたオーガニックグロースは約8%だった。世界経済の成長率を上回れたのは、伸びているセグメントに集中してきたからだ。そのうち日本を含むアジア太平洋地域の売上高は13・8%を占め、とくに日本事業はこれまでの歴史の中で最も成功した年になった」

日本事業が好調な要因は。

 「当社は40年にわたって日本でビジネスを手がけ、医師が使う手術手袋は50%以上のシェアを握る。手術は長時間にわたる非常にきめ細やかな作業が毎日行われるため、手袋には確実に手技ができる使用感のみならず、アレルギーを起こしやすい化学物質を含んでいない素材などが求められる。当社は自社による製品開発、製造・販売を通して医療従事者の信頼を獲得してきた」

 「日本では手術分野の成長が長期に続いていることに加えて、産業分野で使う化学防護手袋などの需要も急速に伸びている。背景には、24年4月に労働安全衛生法が改正され、化学物質に対する安全管理の取り組みが強化されたことがある。製造現場における複数のリスクに1つの製品で対応できるように工夫もし、たとえば日産自動車には多くの製品を採用いただいている」

今後、どの産業分野の成長を見込みますか。

 「半導体分野はとくに力を入れたい。化学薬品に対してこれまで最も保護性能の高い手袋はニトリルゴムとネオプレンゴムの多層構造だが、半導体の洗浄工程などに使うアセトンなどの溶剤には十分な効果がないことが課題だった。当社は10年近くをかけ、天然ゴムを多層構造に加えた新製品を開発し、アセトンに対して15分以上の耐性を実現した。早ければ12月に世界に先駆けて日本で販売を始める。また、ロボットの活用など製造現場の環境が変わるなか、静電気を帯びない防護具といった新たな需要にも対応していく」

どのように日本市場を開拓しますか。

 「顧客に製品を提供するだけでなく、顧客からのフィードバックを製品開発に生かす取り組みも続け、技術や品質、規制などのそれぞれの専門人材を増員していきたい。現在、中期的な経営計画の策定作業を進めており、全社的には年率4~6%の成長を目指そうと考えており、その中で日本は6~8%と全社を上回る成長に挑戦したい」

成長に向けてM&A(合併・買収)をどう駆使しますか。

「現在の事業領域以外に進出できるような案件を考えている。たとえば、手術室で使われるアイウエアや手術時の感染リスクを防ぐことができる技術などに興味がある。当社はオーガニックな成長を実現できる事業基盤があり、チャンスがあればM&Aも手がけていく」

聞き手=三枝寿一
出展:化学工業日報2025年11月21日14面、弊社ウェブサイトへの掲載期間は1年間


以上